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ひよさんへ【first-その②】
満足夢 その②



2









突然現れた存在に場は一拍の間を置いて一気に騒然とし始めた。先程まで居なかった筈のその男はわざとらしく音を立てるようにして近づいてくる。
コツリと革靴の底が大きく鳴るのにビクリと揺れるリーダー格の肩を目の端に捉えつつも、私は視線を男から反らすことが出来ずにいた。

「…満足、させてくれよ?」

月の光を反射するように瑠璃色の髪が瞬いて、思わず息を飲む。凛と響いた冷涼な声はこの状況を面白がるように軽く、また何処までも冷ややかだった。
嘲笑うかの態度にやっと怒りを覚えることが出来たのだろうか。周りを囲んでいた男達は口々にがなり始めるが正直耳には入っても理解が出来ない。

「なっテメー何者だ!」
「いつから居やがった!」

頭の中で警報が鳴っているのに気付いた時にはもう遅かった。急いで状況を整理して最善の行動を取るべきだと警告が迫るのにーーーあの男が自分を真っ直ぐに見ていることに気付いてしまったのだ。
男共のふざけた態度に苛立っていたとはいえ、私はまだ冷静だった。最悪逃げることも考えていた。十数対一では相手がどんなに馬鹿だろうと私は不利になるに違いない。数人を打ち負かしてこの怒りがスッキリしたら、隙をついて逃げればいいと思っていた。生きることが重要なのは、私にとって変わることのない優先事項。
それなのに。

「おい、なぁ」

アイツは私に言ったのだ。

「勿体ねぇよ、お前」

―――満足させてくれよ?

逃げるなんて、お前馬鹿じゃねぇ?

真っ直ぐに此方を見る、透き通った泉の色が私の余裕を奪った。最初から相手を見下した私のデュエル。あぁ、楽しくない!
私が決闘をするのは生きるためだ。それ以上でもそれ以下でもない。誰にも頼らず生きるため―――それもカードに頼っていたに過ぎないのに。
それなのにいつからこんな風に面白くない闘いをしていたんだろう。

「おいテメー何言ってんだ…馬鹿にしてんのか!」
「頭この野郎もディスクつけてますぜ」
「へぇ…わざわざやられにきたのか?」

「…いや、やられるのはお前らだろ。でも―――」


ああああ、イライラする


「俺にじゃ、ない」



殴る、女の私が殴った所で大したことにはならないなんてことはないのだ決闘者である以上私の筋力だって馬鹿にならないデュエルディスクの重さ舐めるなこの野郎殴る殴る殴る、全員殴る!
そしてその前に。



「決闘で、ぶちのめす!」



男達がいきなりの私の声に驚嘆していたため決闘も何もないとは分かっていたが私は構うことなく自分のデッキからカードを引いた。あっちが売りさばいた喧嘩を私は買ったのだ。返品なんてそんな勿体ないことする訳がない。だってこんなに面白いのに!
状況は悪い。逃げ場がない。突然現れた男に注意が行った。その視線をまた自分に戻して今私は笑っている。これでこいつらに圧勝したりしたら、私って何処のヒーローよって感じだと思わない?
あぁ、笑みが深まる。
私のか―――それともアイツのかは、きっと月だけが知ってるのだ。







「やーすごかったな」

ハァハァと切れる息が白くなる。闘いは夜まで続いてしまった。近頃の夜は冷えきっていて、どうにも過ごし辛い。
寒いからか、そこかしこからうめき声が聞こえるからか、もしかしたら隣で聞こえる乾いた拍手の所為かもしれない。私はぶるりと震える腕をそっと撫でた。

「… あんた誰なの」
「まぁ気にすんなよ、“椿狼”」
「…なにそれ」
「知らないのか?あんた有名だぜ。狼は一匹狼、あと狩りにいって狩られることかららしい…椿はー…」

すっと一房髪を持ち上げられるその動きが様になっていてつい見とれてしまう。
もてあそぶ指から手、腕と辿っていくと此方をみる双眼。あぁ、いつみても澄んでいる。

「聞いてた通りだな」
「え」
「赤い髪に瞳。花弁のように瑞々しくて綺麗だ」
「…は?」

は?え?今の言語でした?え、なにこの人…意味が、

「ぶっ」
「え、あ、な、なに」
「椿狼、あんた全部真っ赤だぞ」
「はぁ?」

くつくつ笑われて意味がわからなくて、つい頬に手をつけると熱かった。今の私は文字通り真っ赤なのだろう。
私は自分の髪の色がそんなに好きではない。暗闇で見ると不気味で鏡を見るのも嫌になった時があった。
それなのに、目の前の男ときたら、き、綺麗なんて。いくらお世辞にしたって男の顔はそれこそ誤解しちゃう程度によろしいのだ。すっとした鼻筋に、涼しげな目元。キリっとした眉に形のよい唇。その唇がゆるりと笑みを象って、綺麗だと宣うその姿こそ美しい。

得体の知れない怪しい男に見とれてた自分が悔しいのに、文句の一つも出てきやしない。
苦し紛れに私は口を尖らせた。

「そ、その変な呼び方やめてくれない」
「んー… じゃああんたの名前は?」
「……早苗」
「おぉよろしくな早苗。俺は鬼柳京介、あんたをスカウトしにきた」
「よろしくする気はな……ってスカウト!?」
「あぁ。チームサティスファクションのリーダーやってんだ。入らないか?」

手を伸ばされて思わずまじまじと見てしまう。
チームサティスファクション。サテライト統一に名乗りを挙げてるチームの一つで、その名は至るところで聞いたことがある。
この男がそのリーダー。
特に違和感はなかった。人を惹き付ける生まれついた才能。大人数を前にして圧巻されるどころか逆にその場を制圧する彼のカリスマ性を目の当たりにした私はすんなりと納得した。デュエルにおいても、チームサティスファクションには精鋭しかいないと聞いている。
そんな彼が、私をスカウト?

「な…」
「ん?」
「なんで私?」
「んー、ほんとはただ興味があっただけだ。噂の椿狼に」
「…」
「どんなお転婆かと思ってな。そしたら違った」
「大人しくてびっくりした?」
「ちげーよ。もっと暴れる力も願望も持ってんのに、んなとこでつまんねーデュエルばっかしててさぁ。あんた馬鹿だろ」

私が握り返さなかったから行き場のなくなったであろう左手をぎゅっと握って、自分の胸元に当てる。

「楽しいデュエルをしようぜ。ココが、燃え上がるような」
「……デュエルが楽しいなんて暫く忘れてた」
「だろうなぁ勿体ねぇ。あんたの心意気と度胸が気に入った。でも楽しくねぇデュエルなんざデュエルじゃねぇよ」
「…貴方のチームに入れば楽しくなるの、かな」
「きっと楽しいぜ。満足するっきゃねぇ、てな」

胸元から放された手は、また此方に伸ばされる。
月明かりはもう雲に隠されて久しいというのに、その手が輝いて見えるのは何故なのだろう。

「俺と、一緒にこないか?」


そう言われてつい手を伸ばしそうになる自分がいるのを、認めざるを得なかった。





***
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